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3度目の正直

3度目のうつは、それまでの苦しさとは比べ物にならなかった。
なにしろ、半径2m以内である。

不思議な人だった。それまでの人生の中で、
一度も出会ったことのないような、不可解な人。

何しろ会話がない。仕事に関する会話さえ、
最低限の言葉しか口にしない。
子供には、ちゃんと話しかけている。笑顔もたまには出る。
仕事は完璧なまでに、自分のペースでしないと機嫌が悪い。
自分の思いと違うことを他のスタッフがすると、
小さなことでもピシリと指摘をしてくる。

機嫌が悪い日ははっきりわかる。
というか、ほとんどの日が機嫌があまりよくない。
そんな日はまったく口をきかない。

私は、異動したばかりで、デイリーの細々したことを、
その人に聞かなければ、戸惑うばかりで動けない。
初めのうちは、この人も人見知りをしているのかも知れないから、
日にちがたてばだんだん打ち解けてくるだろう、と様子を見た。

少しずつこちらから話しかける努力をしたが、
1か月たっても、何も変わらない。
彼女はマイペースで、いろいろなものを作ったり、
主となる期間の保育を熱心に企画している。
仕事はとても真面目で、デキるタイプの人だ。

しかし、私は少しずつ心が疲れてきた。
2ヶ月たっても変わらない。
朝の通勤が、少しずつ億劫に感じるようになっていた。
完全に、自覚できるほど、感情がフリーズしているのがわかった。
表情が作れない。保護者や子供たちに、笑顔を向けなくてはならないのに
顔の筋肉がまったく動かせない。
そして、子供と遊ぶことが、苦痛になってきた。

ある日、よく晴れた日に、裸足で遊んでいた子が、
足洗い場の鉄板の上を歩いてしまい、熱い~!と悲鳴を上げて泣いた。
私は、それを目の前で見ていながら、反応できなかった。
たまたま見ていた園長先生が、事務室から飛び出してきて、
すぐ水で冷やしてくださった。
熱かっただけで、火傷はしていなかったが、
なぜ、体が動かなかったのか。
なぜ、熱いと泣いている子の痛みを感じてやれなかったのか。

私は、保育士失格である。思考回路も、判断力も、急降下している。

このままでは、明日を迎えられない。
そう思って、ヒヤリハットの反省文を書き終えたあと、
残って反省会をしたそうな顔の園長先生に無理を通して
帰りがけに内科の医者に駆け込んだ。

「うつですね。ものすごく疲れています」と薬を出してもらった。
薬はあまり期待はしていなかったが、とにかく辛い、ということを
自分ごとのように聞いてくれる医師だったので、
認めてもらえた気持ちが支えになり、翌日からまた働いた。

参観日がせまっていたのだ。
早く内容をきめて準備をしないと大変、との思いから
彼女と話し合って決めたいと思った。

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